2025年8月22日(金)、長崎大学大学院生向け集中講義「マイクロデバイス総論」にて、旭化成マイクロテクノロジ株式会社の稲田様および菅原様を講師に迎え、アナログ半導体(ADC / DAC)設計の実務とその魅力についてご講演いただきました。

音とデジタルの架け橋 — ADCの存在意義
講義は,オーディオ用アナログーディジタル変換器(ADC) LSI開発・設計・販売を手掛ける旭化成マイクロテクノロジ社様の業務内容や社外機関との共同研究/公募についての説明から始まりました。
続いて,「なぜADCが必要か」という根本的な問いからスタートしました。私たちの世界はアナログ信号で満ちています。これをデジタル化し、高精度に保存・処理することで、音響品質やセンサー計測精度、システム制御性能が飛躍的に向上します。
稲田様は、日常的に使用される音楽再生機器や録音機材を例に挙げ、ADCの役割がいかに不可欠であるかを、聴覚に訴える生きた説明で紹介されました。
理論を支える基礎 — サンプリングと量子化誤差
次に取り上げられたのは、サンプリング理論と量子化誤差。アナログ信号をデジタル信号に変換する際の「標本化」の考え方や、信号を有限のビット数で表現することによる誤差について、グラフや波形を用いて解説されました。
このパートでは、理論だけでなく誤差が実際の音質や計測に与える影響も音声サンプルを交えて実演。学生たちは波形解析と耳での確認を行い、数値と感覚の両面から理解を深めました。
多様なアーキテクチャ — 変換方式の特徴と選択
ADCにも複数の方式が存在します。フラッシュ型、パイプライン型、逐次比較型(SAR)、ΔΣ(デルタシグマ)型といった代表的な構造について、それぞれの動作原理と長所・短所が説明されました。
例えば、フラッシュ型は超高速だが回路規模が大きく、ΔΣ型は高分解能で音響向きだが処理速度は低め、など実務設計に直結する視点が強調されました。菅原様は設計現場での選択理由や、仕様検討の裏側についても具体的に言及し、学生の関心を引きました。
数値が語る性能 — S/N比とTHDの重要性
性能評価には、S/N比(信号対雑音比)やTHD(全高調波歪)といった指標が欠かせません。講義では、これらの値がオーディオ品質や計測精度にどのような影響を与えるのかが、音源再生を通じて示されました。
理論値と実際の聴感の差を体感できたことで、学生たちは「スペックの数値が意味する本当の価値」を直感的に理解する機会となりました。
センサーと融合する未来 — 新たな応用領域
ADC技術は、磁気センサや電流センサなどの周辺技術と融合することで、新たな応用領域を切り開きます。稲田様は、建築音響や産業計測といった異分野での活用事例を紹介し、マイクロデバイスが社会にもたらす広範な価値を提示されました。
特に、音響分野における高精度測定は建築設計や製品開発に直結するため、学生たちは自らの研究テーマとの関連性を熱心に模索していました。
技術と人を育てる — Velvet Soundとマイスター制度
旭化成グループの高音質ブランド「Velvet Sound」は、世界的なオーディオメーカーにも採用される品質の象徴です。その開発を支えるのが、社内での技術者育成制度「マイスター」。若手エンジニアが先輩技術者から知識と経験を体系的に学び、次世代の製品開発を担う体制づくりが進められています。講義では、こうした企業文化や人材育成の重要性が語られ、技術と人材が相互に高め合う企業の姿勢が印象づけられました。