2025年8月21日(木)、長崎大学大学院生向け集中講義「マイクロデバイス総論」にて、Ansys Japanの古賀 誉大様を講師に迎え、コンピュータシミュレーションなどのCAEの活用についてご講義いただきました。

外資系企業の技術者像と自己紹介
冒頭、古賀様はご自身の経歴(2025年3月に長崎大学にて博士号を取得)や担当分野(CAEソフトウェアのアプリケーションエンジニアリング)をご紹介。外資系企業では博士号取得者が多く活躍していることや、その背景についても触れられました。
CAE活用の広がりとフロントローディング効果
CAEは自動車や機械などの工業分野だけでなく、食品やスポーツウェアといった異業種にも浸透しています。設計段階からシミュレーションを取り入れるフロントローディングは、試作や検証のコスト・時間を大幅に削減する効果があり、近年はV字プロセスと組み合わせて製品開発の効率と品質向上に寄与しています。
基礎知識が支える高度解析
複雑に見えるシミュレーション解析も、学部1〜2年次で学ぶ基礎知識を積み重ねたもので成り立っています。この事実は、多様な人材がCAEスキルを習得可能であることを示しています。
解析領域の進化 — Single Physicsからデジタルツインへ
古賀様は解析技術の進化を以下のステップで解説しました:
- Single Physics:理論と形状それぞれの世界での解析
- Multiple Physics / Multi Physics:複合物理の同時解析
- Complete Virtual Prototypes(モデルベース開発)
- Digital Twin:稼働中の設備データを活用して状態を解析
特にデジタルツインはIoTとの組み合わせにより、設計モデルを保守運用にも活用する事例が増えています。風力発電設備の保守など、具体的な産業応用例が紹介されました。
計算効率化と最適化の技術
- サロゲートモデル:従来は数時間かかる実験や解析を省略
- 遺伝的アルゴリズムによる設計最適化:高精度かつ短時間で最良解を探索
これらのアプローチは、製品の品質向上と市場投入までの期間短縮に大きく貢献しています。
AIと生成AIの設計支援
AIや生成AI、LLM(大規模言語モデル)の設計プロセスへの導入可能性についても言及がありました。AIプロンプト設計の工夫や、どこまでAIツールを業務で活用できるかという検討は、今後のCAE活用における重要テーマです。
マイクロデバイス分野での課題と信頼性確保
マイクロデバイス向けシミュレーション事例として、電気用保安法による温度規制(39度以下)や、電源設計における熱対策・電磁ノイズ(EMC/EMI)対策が取り上げられました。
CISPR25などの国際規格や、自動車メーカー独自規格への対応事例も示され、シミュレーションが規格準拠を支える有効な手段であることが示されました。
共通課題と開発文化の変化
製品開発では、熱や電磁ノイズ対策といった共通課題への取り組みが不可欠です。CAEの設計段階活用はこの10年で「当たり前」の時代に到達し、企業文化としても根付いてきています。